ニーチェとその時代/氷上英廣

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4000016660.html


ニーチェに関する論文集。
エピクロスなど、ニーチェの思想の系譜を辿る論考は鋭く、深い。とても面白かった。
また、それぞれの論文で「運命」「勇気」「冥界」「死」「インド・アフリカ」「苦悩」といった簡潔な言葉で、ニーチェの思想がまとめられている点も、読みやすい。


「偶然をおのれの運命と化するのは、偶然を契機として自己自身を開展し、かくしておのれがおのれに出逢うことに外ならない」(16頁)


「洗い清められた偶然はもはや他に原因を持たないのであるから、自己原因であり、自己偶然である。自己原因とは、また絶対的必然性とも呼ばれるものであるが、絶対的必然性は、自己の存在を規定する必然性を自己の外に持たないという意味であるから、それは絶対的偶然性に外ならない」(19頁)


「『自己を世界の中に感じ、世界を自己の中に感じる』こと、この哲人的な視界がニーチェアルカディア的幸福である」(64頁)


「われわれの現実は白昼夢であり、われわれはその夢のなかで個体という仮象を生きているにすぎない・・・死による個体の破壊・・・それは恐怖と歓喜を通じて、夢から醒めることでもある」(74頁)


エピクロスの神は実に不思議な神である。それは人類のことなどまったく気にかけない神なのだ。・・・この神はオリュムポスに至福の生活を送っていて、人間のあらゆるいとなみ、その幸不幸などには眉根ひとつ動かさない」(191頁)