ニーチェの遠近法/田島正樹

http://www.seikyusha.co.jp/books/ISBN978-4-7872-1035-7.html


タイトルは「遠近法」だが、ニーチェの思想全体を扱った本。
内容は、試練としての「アフォリズム」、他者の存在を要請する「観点」、悲劇的なものとしての「真理」、自己へ向かうこととしての「永遠回帰」を、主に中・後期の著作や断片から考察したものである。いわば、「自己への配慮」としてニーチェを読んだもの、と私は捉えたい。
また、たびたびモンテーニュからの引用があり、ニーチェとの類似が指摘されている点も興味深い。自己と世界を吟味するための「エセー」。


「友情が課す義務は、互いに自己自身にふさわしくあろうとし、自らを裏切るような卑小な真似はしないということ・・・友人に対して、彼の友人たることに恥じないような者であり続ける意志・・・である」(49頁)


「各人がそれぞれの宿運を肯定し、それを担うことを意志することこそ、他人とは共有されえない彼自身の徳であり、彼自身の価値判断であり、自己表現である」(57頁)


ニーチェにおいて『運命』とは、それを肯定しつつ引き受ける高貴性が、『偶然』に対して祝福して授けた洗礼名なのであ・・る」(59頁)


「自分の性格に様式を与えることとは、己れの自然本性をどの細部をも否定したり否認したりすることなく、いかなる部分も犠牲にすることなく、全体としての作品(すなわち生全体)のなかに生かしつくすことである」(103頁)


ギリシア人にとっては・・・真理はなにかしら驚くべきものであった。・・・露見するときにはそれまでの我々の認識をくつがえし、その裏をかくようなもの。そのような劇的逆転が強調されたのは、それが人間存在の有限性やはかなさの自覚と一体のものだったからである」(158頁)


「真理は、自らに正直であろうと欲する高貴な生のあり方にとって特有のものである」(178頁)


「『自己自身であるものになる』・・・我々はさまざまの試練を経て、自己自身を実証し・・・自己自身になり続ける。それによってはじめて、過去のいっさいが取り戻され・・・現在のなかに脈打つ・・・忘却されている過去が、生まれ変わって現在に回帰する・・・これは同時に我々の変身である」(225頁)