遺された断想(1875年初頭〜1876年春)/ニーチェ

http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=01949


白水社版全集・第1期第5巻に収録。タイトル通り、1875年から76年の遺稿。
まずは、「われら文献学徒」のメモが続く。これは、当初「反時代的考察」第4編として予定されていたもの。「民族」や「虚栄心」、古代文化(特にギリシア)を「人間中心主義的」に理解することを批判している。それに対して、「英知」や「読み書き」、古代文化を「人間的」に捉えること=「自由」「素朴」を打ち立てる計画だったようだ。
次に、古代哲学に関するメモが注目される。特に、ソクラテスの評価が高い点が興味深い。また、「いまだ獲得されたことのない生の形」「美とは新しい生への喜び」といった、フーコーを連想させる表現も多い。
そして、「反時代的考察」第4編の予備的考察が残されている。著作本編よりも、ヴァーグナーへの否定的発言が多い。また、短い断章や段落をつなぎ合わせて、本編の論文を作っていることが、わかる。やはり、論文形式というものは、ニーチェには向いていないらしい。


「自分自身のために生き、他者を配慮しつつ生きたりはしない、というのが自由人の生き方だ」(3群55番)


「ほんとうのところはほめられることなど自分にはどうでもよいことなのだ。ほんとうの自分自身はそれによって微動だにすることなく、日のあたっている場所であれ、日蔭であれ、自分の現在ある位置から一歩たりとも転がり出ることはない」(5群184番)


「哲学者を誘惑するものは、ことばだ。彼らは言語の網のなかで身をもがく」(6群39番)


「人間はひとりでいることを欲し、それに徹し、自分の外へは踏み出さないときにこそ、生によく耐えて生の価値を信じるのだ・・・そしてその場合は、個人的なことがら以外のいっさいはただおぼろな影のようにしか認められなくなってしまう」(9群1番)