アンチクリスト/ニーチェ

白水社版全集・第2期第4巻に収録。1888年の作品。
著作として計画された「あらゆる価値の価値転換」第1編として、書かれたもの。
内容としては、前半は、「われら極北の民」と「不潔な近代性」の対比から始まり、畜群、キリスト教の同情、ドイツ哲学、プロテスタントデカルト的機械論が批判される。続けて、ユダヤ教とエホバにまで遡る、系譜学を実践。対比する形で、仏教とブッダの精神を評価。
そこから折り返して、後半は、キリストと弟子のパウロたちを区分けし、後者を徹底的に批判。対比して、キリストに対する肯定的な評価が登場する。その後、再び、現代に戻ってきて、「自由なる精神」とキリスト教を受け継ぐ現代の人間、「信念の人」が対比される。
否定すべきものを、神学者のタイプとして、「デカダンス」にまとめている点は、同じ時期に完成した「偶像の黄昏」と共通している。
これまでの著作で繰り返し言われてきたことが、一貫した系譜として述べられていて、ニーチェの思想がクリアに表現されている作品だった。晩年の作品から1冊をあげるとすれば、この「アンチクリスト」を私は推奨する。


「山頂で生きる修練――政治や民族的利己心という哀れな当世風のおしゃべりを足もとに見くだす修練が必要である。諸君は、無関心になり切ってしまわなければならない。・・・新しい音楽が分かる新しい耳。はるか遠方を見通す新しい眼。・・・自己に対する畏敬、自己への愛、自己に対する絶対の自由・・・」(序言)