遺された著作(1870〜72)/ニーチェ

白水社版全集・第1期第1巻に収録。
前半は、「悲劇の誕生」の基礎になる、公開講演や論文が収録されている。
悲劇の誕生」と比較すると、「エウリピデスソクラテスの評価が作品によって微妙に異なる」「エピクロスなど、悲劇の誕生には登場しない名前が見られる」といった特徴がある。
「人間を登場人物のように自在に使う」という姿勢が初期から一貫していること、「悲劇の誕生」は非常にメリハリのきいた構成になっていることなどが、よくわかる。


後半は、「われわれの教育施設の将来について」という連続5回の公開講演が収録。
内容は、現代(と将来)の教育への批判を入口に、われわれの社会・文明・文化・人間のあり方を根底的に批判するもの。
「われわれの生きる近代とは人間の従属化の時代である」という問題意識は、フーコーとも重なりつつ、この後のニーチェが一貫して持ち続けるもので、非常に興味深い。
それに関連して、「必然に安らぐ」「孤独」「沈思黙考」「自己訓練」「英雄と天才」「師と弟子」「自然の中に自己を再認識する」「勇気」といった、ニーチェ的な要素が散りばめられている。
ニーチェ哲学のすべてがあるといっても過言ではないほどで、「日常的なものを謎として拾い上げる」「精神の貴族主義」の道は、ここから始まる。