遺された断想(1872年夏〜74年末)/ニーチェ

白水社版全集・第1期第4巻に収録。
時期としては、「悲劇の誕生」出版後から、「反時代的考察 第3編」出版後まで。
やはり「反時代的考察」の草稿が多い。また、古代哲学に関するもの、ゲーテヘルダーリンの抜き書きなども、印象に残った。
同時代に批判的になり、古代に立ち返っていく様子が、よくわかる。


「学者の共同体の話はよく出るが、天才の共和国の話は誰もしない。その国の様子は、きっとこんな風である。――巨人が別の巨人に、何世紀という荒涼たる地帯を飛び越えて、呼びかける。ところが、その下に這いつくばっている小人の世界の住人どもは、巨人の叫び声以上は何一つ耳にせず、何かが起こっていることは薄々察知しているが、それ以上のことは何一つ理解しない。というのも、この小人連中は、下界で終わることのない道化芝居をやっては大騒ぎをして、捨てられたものを拾っては引きずって歩き、英雄たちのことを口やかましく宣伝する。彼らの言う英雄なるものは、その実、彼ら小人自身にほかならないのであるが。巨人たちは、そんなくだらないことに邪魔されることなく、高貴なる魂の対話を続けるのである」(24番4節)


「哲学者の作品は、彼の著作よりも前に、何よりもまず、彼自身の生である。これこそが、哲学者の芸術作品である」(29番205節)


「知恵は、新聞や雑誌向きではない。――知恵の意図するところは、人間を一切の運命の攻撃に耐えさせること、一切の時代に対して武装させることにある。知恵は、共同体的なものではない」(30番25節)