人間的な、あまりに人間的な 上/ニーチェ

白水社版全集・第1期第6巻に収録。1878年、「ヴォルテール没後100年」に寄せて出版。
すべてを冷めた目で見つめること、人間的なものを「吟味」する「科学」的「認識」を目標にした著作。
後期へとつながる「同情」「善悪の起源」「距離」「舞踏」「病気」といったテーマが明確に出現している。
また、ヴォルテールと並び、キュニコス派エピクロス派・ストア派スピノザへの(肯定的)言及も見られる。
「反時代的考察」の時期から引き続いて、「天才」「英雄」*1の象徴が使用され、「自己への帰属」を目指すニーチェの連続性も指摘できる。
なお、本作からアフォリズム形式を採用している。


「静かな生産力  精神上の生まれながらの貴族は熱中しすぎない。彼らの創造物は性急に渇望されもせず、促進されもせず、新しいものによって押しのけられることもなく、静かな秋の夕べに現れて、樹から落ちる。絶えざる創造意欲は卑俗であり、嫉妬・羨望・名誉心を暗示する。人間がひとかどの者であるならば、本来は何物をも作る必要はない」(210番)


キュニコス派エピクロス派  キュニコス派は・・・文化の要求のあるものから遠ざかることによって、退歩的に自己形成をする。・・・それによって彼らは再び動物の感情を高く超越する・・・キュニコス派がただ否定のなかに止まるのに反して、エピクロス派は流行の意見の上に身を高めるのである。彼らの頭上でも樹々の梢が風にざわめいて、外の世間はどんなに激しく動揺しているかを知らせているのに、彼らは風のない、よく囲われた薄暗い回廊の中を逍遥しているようなものである。これに反して、キュニコス派はいわば裸で戸外の風の吹きすさぶなかを歩き回り、無感覚になるまで身を鍛えるようなものである」(275番)


「病気の価値  病気で床についている人間はときとして、自分がいつもは自分の職務・仕事あるいは仲間という病気に冒されていて、そのために自分についてのあらゆる分別を失っていたのだということに気づく。彼は、病気によって強いられた閑暇からこの知恵を得るのである」(289番)

*1:簡潔、軽い、戯れ、夕べ、勇気、笑い、閑暇、沈静、自由、孤独、、ゆっくり、美しい、など